突撃レーザー氏の『All Imperfect Love Song』を読んだ。彼とヤーブラカについて

突レさんが居なくなる前にこれを描いてくれて本当に良かったと思う。欲を言えばもっと描いてほしい。決して万人受けしないだろうから無理強いはしたくないけど。

突撃レーザー氏とそのキャラクター、ヤーブラカについて

以下突レさん。この文章を読むのは多分彼のTwitterのフォロワーだと思う。今日に突レさんと言えばミルクレモン/栃木/旅行/白目の人だけど、元々凄まじい1次創作者である。ゲームや漫画、音楽など様々なジャンルにまたがる。圧倒的なのはその作品量。暫定キャラノートを見ればわかるが、完全自作キャラクターだけでも200体は下らない。楽曲モチーフのキャラクターなどを含めれば300体以上。彼のサイト『スーパーロマンチカBEEP』を見れば作品も膨大なのが分かると思う。

彼の全体的な印象や良さを評した文章は『画力で面白さは量れない~突撃レーザーさんの紹介~ - LIKE A ROLLING BALL』などがあってとても良い。私も似たことをしたい。範囲は狭いけど私の体験を踏まえて情報を追加できると思う。

最終的には突レさんの今年の同人誌『All Imperfect Love Song』の話をしたいんだけど、先に『某連載「幻想」』、ひいては僕の推しであるヤーブラカの話が必要で、さらにそれにはいくつかの作品を踏まえる必要がある。

免責事項

突レさんの作品をいくつかそのまま引用することをお許しいただきたい。また僕が突レさんと知り合ったのはせいぜい7年前くらいの話なので、もっと古参の人からしたら当たり前のことを話すかも知れない。あと間違ってたら殴ってください。直します。

連載4コマと彼の作風について: ナンセンスギャグの裏に仄暗い設定が忍び寄る

僕の知り合った頃はまだギリギリ連載4コマ(多分『梵連載「昇天」』。完結済み)を描いていた。ヤーブラカが全面的に登場する作品は『某連載「幻想」』なんだけど、その前に説明を聞いて欲しい。

まず、絵が整っているかは重要じゃない。『旧連載「人生」』に関する彼のツイート曰く:

旧連載「人生」は、そもそも何故こんな連載を始めたのかというと、これを始めた2007年当時、小林銅蟲先生の4コマ「ねぎ姉さん」を初めて読んで、そのあまりに不条理で破天荒な4コマスタイルに衝撃を受けて、「これが許されるなら、俺もこういうのやりたい!」と真似したのが始まりでした(白目)

とのことで、『ねぎ姉さん』を踏まえる必要がある訳だ。芸術なんかがそうであるように、文脈があって初めて意味を成す。ねぎ姉さんは基本的にナンセンスギャグで、ぱっと見て何が描いてあるかすら分からないコマが連なっていたりする。ねぎ姉さんはコボちゃんのコラ作品『異次元コボちゃん』に影響を受けてるらしい。

ほぼ異次元原液の『人生』はちょっと刺激が強すぎるので、『終連載「往生」』辺りを読むといいかもしれない。基本的にさーっと描いた絵でナンセンスなギャグがすーっと通り抜けていく、この清涼感を味わうのが連載4コマの基本だと思って欲しい。あとはキャラクターがわちゃわちゃしてて可愛い。当時の僕は少なくともそう思った。

往生51-60よりヤーブラカ初登場回(59)。単純な行動と当然な結果。トイレのマークみたいなキャラは『おんなのこ』という名の外道なばいきんまんみたいなやつ。みんな可愛い

清涼感の次に、不穏さというのを感じ取って欲しい。『昇天』の端々に『裏昇天』というのが出てきて、テレジアの尋常ならざる様子が見える。

裏昇天 No.03より。可愛くて愉快なだけじゃなさそうだぞ。あとこの表情が描けてる時点で何らかの心得を感じる

作品内では語られない不穏さというのもあって、『轟連載「落雷」』に関して次の様なツイートもある:

落雷は、最終的にうらじーみるが落雷で死ぬというオチで終わりにしようとしてたと思う、それだけ覚えてる(白目)
ジルというキャラは対象を確実に殺すみたいな能力を持っているので、ジルが殺そうとするけど、結局死ななくて良かったねーってなったあとに、落雷に打たれて死ぬみたいな(白目)

タイトルからして『人生』『往生』『昇天』だ。ただ曖昧なタイトルを付けてて面白いなーと思っていたらそれは間違いで、ちゃんと最初から不穏だったわけ。往生も無理ーツが死にまくる話でとにかく不穏だ。私の記憶が正しければ、昇天も『最後にマリアがマジで昇天して終わりだった』という言及を見た気がするんだけど、今探してもツイートが出てこないので勘違いだったかも知れない。もしそれが真実であれば「死ごっこ」って……。

とにかく、面白いギャグだと思ったら結構ダーク、というのが好きな人に刺さって欲しい。アドベンチャータイムとか松尾のアニメとかファイアボールとかそういうのが好きなら結構いけると思う。「設定が徹底的に知りたい!」と思ったら、4コマの形式ではなく完全にダークなだけの『創世神話』を読むといい。世界観からして凄まじかったというのがわかる。彼の創作の世界は普通の場所ですらなかった。

創世神話より。ファミ通WAVE DVDのおふざけの画像が元ネタっぽいを彷彿とさせる。セックスが題材の1つなのは本当。とんでもない創造神話だ

ここまで来てやっと『某連載「幻想」』を読んで欲しい。これは往生に出てきたヤーブラカというキャラクターにスポットを当てた連載。最初はキャラとストーリーを定めて今までの4コマをやってるんだなと思うかも知れないが、次第に回収されていく伏線が気持ちいいので、できるだけ一気に読んで欲しい。とにかくヤーブラカというキャラクターを味わおう。あとそんなにメインじゃないけどマグダラのマリアとの絡み。ネタバレはあんまりしたくないので、以後読んだと言うことにして話を進める。

ヤーブラカの魅力について: 要はクーデレ。でも不死者

設定からして

ある神の下に生贄として捧げられ、その身を失った代償に不死の肉体と神の力を得て再び現世に落とされた少女。 彼女は現世に生を受ける全ての人々の「罰の依り代」となる存在であり、その全ての罪を背負いながら生きている。 彼女に絡まった蔓は彼女の意志で自在に操ることができる。

で、往生で口調からして「ああ不死になったから世界の全てがどうでもいいんだろうな」って感じの登場をするわけだけど、これがどうして幻想ではかなりヘミングウェイにデレるし、失敗するとわんわん泣くし、滅茶苦茶可愛いキャラなんだとわかる。この「不死キャラなのにたまに感情が豊か」というギャップがとんでもない魅力だ。何百年も生きてきて、それでもすり切れない気持ちの裏にはどんな経験があったのか、気になって仕方ない。

同人誌について

連載4コマを飛び出して舞台は同人誌へとうつっていく。そのなかで、ヤーブラカとマグダラのマリアのさらなる絡みが描かれることになる。突レさんはサービス精神が旺盛なので、同人誌のほとんどは無料で読めるようになっている。連載『ソーニャと北の東の国』とその完全版である2019年12月コミティアの『SUPER ROMANTICA IMMORTAL』の6本目の短編『不死身の女を探している』を読んで欲しい。ソーニャを先にしてどっちも見てね。

ヤーブラカというのがかなり情緒不安定な不死者で、すごい力を持っていて、マグダラのマリアを救ったことがあって、しかも今はマグダラのマリアに精神面で頼りっぱなしなことが分かる滅茶苦茶美味しい同人誌だ。共依存じゃん。クールに見えてめちゃくちゃ情緒不安定なヤーブラカがあまりに可愛くて、僕は合同誌『スーパーロマンチカFES』に寄稿した(百田:ヤーブラカの傷心旅行)。無料PDFなので是非読んでみて欲しい。拙いけど当時の熱気みたいなのが伝わるかも知れない。

All Imperfect Love Songについて

ヤーブラカとマグダラのマリア、この2人がであったときの設定をオフで会ったときに聞いたことがあって、その内容も凄まじかった。これを墓まで持って行かれたのではたまらないと思って、『いつか描いてくれ』と何度も言っていたら、ついに同人誌にしてもらえたのですぐに購入した。この流れ本当に申し訳なくなってきたな。本当に描いてくれてありがとうございます。

まずタイトルはworld's end girlfriendというソロユニットの曲からなはず。具体的なツイートはキャラクター『Clan(お前はお前でなくなる)』について説明してるこのツイートとか、詩『ヤーブラカ、彼女は世界の全ての業をその一身に受け止める依り代​​​​となることを願った(走り書き)』の出典に関するスレッドが相当する。もっと出典に近いツイートがあったら申し訳ないけど。

ヤーブラカとマグダラのマリアの関係が百合なのは『不死身の女を探している』で既に提示されていて、それの過去編、2人の出会いについてを描いた本が『All Imperfect Love Song』だ。結論から言うと、2人の出自が完璧に明かされ、関係性の尊さも爆上がりの最高の本だった。

これ以上は売り物な関係上すぐ読めないものについてのネタバレになるから、買って読んでから、もしくはさよならだ。ここまででヤーブラカや突レさんの魅力というのが少しでも伝わったなら嬉しい。

微ネタバレ感想

ヤーブラカの元ネタは春の祭典で、邪教の生け贄の儀式を破って神と融合して不死者にされてしまい、そこから人の命を救うことに執着して生き続けてきたという壮絶な過去が明かされる。

では、マグダラのマリアとの関係は? 内容については設定をとにかく詰め込んだ、そんな感じ。詰め込んだのに37pもある。無駄な描写なく事実が淡々と描かれる様子は聖書のような趣がある。緻密な設定がそのまま描かれ、「なぜ」が埋まっていくのが気持ちいい一冊だ。あともちろん百合

文字だけならプロトタイプ版がTwitterに転がってるので、それを先に読んでも良いかもしれない。でもどうせ500円だし買った方が良いよ。すぐ読めるPDFもあるよ。

そういえば神が「お前はお前でなくなる」と明らかに意志を持って害す宣言をしているところが最初は違和感あったんだけど、先の曲からこの宣言が来ているんだとしたらかなり納得できる。

6頁目より。まあ誰でも嫌よね

ネタバレ感想

マグダラのマリアがヤーブラカをキリストと重ねちゃってさあ大変。という話は前々から聞かされていたけどこんなヤーブラカ夢女ダイレクトな感じだとは思わなくて滅茶苦茶嬉しくなってしまった。好きな不死者が残機1つ失うのも嫌だから全てを捧げてもいい、って極端すぎて愛しいね。ヤーブラカも最初は話通じない変なのに好かれちゃったなあって感じなのに長い間生きてきて寂しすぎるから全部話しちゃう。可愛いね。

2人とも救いを求めてそれにすがって生きてるというのがよく分かる。ヤーブラカは自分の力が救いになるということを求めていて、マグダラのマリアは世界が救われることももちろん求めてるけど、それ以上に理想的な心の持ち主であるヤーブラカが救われることを求めてる。何百年も共依存で過ごしました、というのは本当によくて、ヤーブラカがクーデレであるところに深みが何重にも増す。

何百年も一緒に過ごしただけじゃなくて、合計何百年かそれぞれの目的のために別れてる辺りがすごくリアル。ずっと一緒に居るわけじゃないのは今までの作品でも言われてたんだけど、いざ突きつけられてみると二人の関係が単純な恋人とかではないというのがよくわかる。共依存ってだんだんつらくなるけど、永遠に離れるのはやっぱり無理だし、愛し合っては居る。この塩梅をさっとお出しできるのちょっとおかしいと思う。熟年夫婦とかバツイチ再婚とかそういうのを超えて最強の「どうせ永遠に2人」が存在するの凄まじいと思う。

最後の創世神話にたどり着いちゃう辺りはコズミックホラー感があってとてもよかった。マグダラのマリアが柄にもなく滅茶苦茶怖がってたのが印象的で、確かにコズミックホラーってアブラハムの宗教の人間は滅茶苦茶怖いだろうし、かなり納得した。自分の足下が実はダムの排水穴だった、とかに近い怖さなんじゃないかなと勝手に思ってる。

自分が関わっちゃったネタとして申し訳ないのがあって、僕が合同誌に投稿した漫画でマグダラのマリアに『マレーナ』って愛称を与えてヤーブラカに呼ばせたやつがある。そしたらそれを公式設定に取り込んで今作で実際に呼ぶシーンを入れてもらえた上、奥付のネタがかつての僕への誕生日イラストでびびった。これ僕のための本? 申し訳ないやらありがたいやら。

あと、これは買ったやつしか見られない方がいいから画像も出さないけど、最後の方で2人がいちゃいちゃしてるコマが多くて本当に眼福でした。みんな悔しかったら買え。